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ハワイに暮らすひと

ナイノア・トンプソン 伝統航海士
「ヨシの顔を頭に思い描きながら、日本列島に向けて航海するつもりだ」

 馬がのどかに草を食むアイナ(土地)に生まれ育ち、今も同じ地に居を構えるナイノア・トンプソン。日焼けした肌に優しい瞳、全身に温かさを漂わせる風貌の彼は、ハワイ民族運動のシンボルとも言える復刻航海カヌー「ホクレア号」を率いるウェイファインダー、伝統航海士だ。ポリネシアの島々から遠洋航海の末、世紀をかけて移住したといわれるハワイの民。計器を使わず、太陽や星、風、波など自然現象を観察しながらコースを取るウェイファインディングという航海術は、楽園に定住する間に、一度は完全に失われた。しかしそれを復活させ、後世に伝えようとしているのがナイノアだ。彼に海のABCを教えた人物は、隣に住む日系移民ヨシオ・カワノだったという。
  「幼少の頃、忙しかった両親に代わってヨシは毎日私を海に連れて行ってくれました。魚を獲ったりカヌーに乗ったりしながら、潮の流れや波の読み方の手ほどきをしてくれたのです」。
  釣り竿を垂れながらヨシが語るメネフネ(ハワイの妖精)や谷間に棲む精霊の話に、少年だったナイノアはわくわくしながら聞き入り、自然に対する感覚を研ぎすませていったのだった。

  ハワイアンの血を引くことに誇りを感じてはいても、民族のアイデンティティとは何かを自問する多感な青春時代を送っていたナイノアに転機が訪れる。1974年、ナイノアが20歳の時、ポリネシア航海協会がホクレア号建造を始め、1976年のハワイータヒチ初航海では復路でクルーメンバーを務めたのだ。以来30年に渡り、ホクレア号の世界4周分以上に至る距離の航海に携わってきた。

  そして2007年、ホクレア号はミクロネシアから日本へ、約5ヶ月間の航海が予定されている。
  「この航海は大きく二つのパートからなり、最初はサタワル島に向け、恩師マウ・ピアイルグに感謝を捧げるのを目的として行くものです」。
  マウこそ、1976年の歴史的航海を成功に導いたマスター航海士である。その後起こった失敗を克服するため、ナイノアがサタワル島に飛び、指導してくれるよう直接頼み込んだ伝統航海術の師である。マウに感謝の念を表すため、航海カヌー「マイス号」を寄贈する目的で、ホクレアはマイス号を伴ってミクロネシアに行くのだ。

  「後半は、ミクロネシアから那覇に入り、熊本、長崎、福岡、山口、広島、愛媛を回って横浜に行く日本への航海です」。
  これらの土地はハワイと最もゆかりの深い場所で、サトウキビ農場で働くために移民してきた日系人の多くにとってのふるさとである。2001年にハワイの洋上で命を落としたえひめ丸の学生達の故郷である愛媛、第二次世界大戦の傷跡が残る広島、長崎もはずせない。
  「小さなカヌーで日本を訪れる目的は、たくさんの人と会うためではありません。会う人は限られているけれど、深く心を分かち合い、理解し合って、長くつき合える出会いを探したいと思います。海の文化、日本の文化を教えてくれたヨシの顔を頭に思い描きながら、日本列島に向かって航海するつもりです」。

  行く先々で、地元の教師にぜひホクレアに乗って航海を体験してほしいとナイノアは語る。ハワイではカメハメハスクールの理事として教育に力を注ぎ、海を通じて青少年のメンター役も務める。
  先日世話をしている高校生から、どうしたらナイノアみたいになれるのか、と質問されたらしい。彼は誰かになろうなどと考えないように、と諭したという。誰かになるのではなく、自分が誰なのかを探すことが大切だと。もちろんその手助けをすると約束したという。
  ウェイファインダーはホクレアに乗って来年日本にやってくる。同じく太平洋を共有する民族として、我々は一体何者なのかを、今一度考える機会になるだろう。

【写真上】ナイノア・トンプソン、自宅にて
【写真中】“希望の星”ホクレア号
【写真下】ぺトログリフのモチーフが描かれた特大パドル

ナイノア・トンプソンとホクレア号についての詳細は下記のウェブサイトをご覧下さい。
http://www.pvs.hawaii.org (英語)
ハワイアイホームページ
http://hawaii-ai.com/feature/feature0605.html

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