

描くことだけはやめられない。自分を最も忠実に表現できるのがアートだから
「朝起きるとまず波の様子をチェックする。いい波が出ていたらボードを抱えて海に飛び込み、いくつか波をキャッチしてから朝食を摂り、メールのチェックを始めるんだ」。
クリスチャン・リース・ラッセンが語る典型的な一日の始まりは、海が好きな人間なら誰もがうらやむパターン。ハワイ州各地に構えた自宅はすべて海沿い。絵を描きながらも波の状態を見守り、絵筆を置いてまた海に戻ることも多々あるという。サーフィン、スイミング、ウィンドサーフィン、ダイビングなどを通じ、実際に毎日過ごしている海を彼独自の手法で描き出す、海洋世界に生きるアーティスト、ラッセン。ハワイではもちろん、日本でも高い評価を受けている人物だ。
「僕が子どもの頃、母はいつもキッチン・テーブルで絵を描いていた。キャンバスの上にいろんな色をのせていく過程を見るのが大好きで、じっと母の姿を見つめていたんだ」。
早くからラッセンの才能を見抜いた母親に絵の手ほどきを受けたことと、10歳の時カリフォルニアからハワイに越してきてサーフィンと出会ったことによって、海洋アーティストの人生の基礎は固まった。16歳にしてマウイ島ラハイナのギャラリーで絵を売るプロのアーティストとなったラッセンは、砂だらけの足で片手にボードを抱え、もう一方の手に作品を持ってはギャラリーに出没した。当時を振り返り、彼はにこやかに言う。
「あの頃は最高に楽しかったよ。サーフィンを好きなだけ楽しんで、創作活動をして、大好きな二つのことだけして暮らしていたんだから」。
ラッセンが捉えて表現する海の世界は、かつて誰も描いたことのないものだ。「多くの画家は陸から海を眺めて描くけれど、僕は違う。波にもまれながら全身で体験した海の壮大さを、できるだけ正確に表現したいんだ」。
海で培った独創的な視点は、海の動物達の描写にも顕著に表れる。とりわけ何度も遭遇したというイルカは、そのいたずらっぽい表情、しなやかな動き、シルクのようなつややかな肌がまるで生きているかのような写実性を持って描かれている。同様に、巨大にうねる波や残照で赤く染まる水平線、雲間から降りそそぐ陽光など、風景画にも自然に対する畏敬の念があふれんばかり。エアーブラシやアクリルを駆使して再現する彼の世界は、ハワイに行ったことがない人でも心惹かれる。
世界各国への旅行や音楽、テレビ、映画界も興味の対象ではあるけれど、やはり一番情熱を注ぐのはサーフィンとアートだとラッセンは言いきる。
「絵を描くことだけはやめられない。自分を最も忠実に表現できるのがアートだからね」。
ハワイに海が在る限り、彼の情熱は冷めることはない。
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