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犬好きは同類を嗅ぎ分ける力がある。初対面の男と女が、お互いに犬好きだと知って打ち解ける場合がある。私と夫の出会いが、そうだった。 夫の職業は「K-9オフィサー」。訓練犬を連れて、爆発物を探知する仕事だ。爆発物だなんて、おっかない、と最初に思った。でも長年のパートナーの犬、Tについての話は興味深かった。遥かドイツのブリーダーから連邦政府が購入し、テキサスの訓練学校に送られたT。ハワイからテキサスの学校に行った夫はTと共に訓練を受けた。毎朝夫の腕にかみついてトレーニングを嫌がったTも、三ヶ月後には夫と一緒にハワイに飛び、ホノルル空港で爆発物探知班のメンバーとして働き出した。そんなストーリーを聞いて、犬好きにはたまらない素敵な仕事だと思った私だが、意外にも夫は自分の仕事がつらいと言った。 結婚後、夫はTを毎晩家に連れて帰ってくるようになった。せっかくハワイに住んでいるのに、空港と犬舎しか知らないなんて可哀想だと夫は口癖のように言い、しょっちゅうTを海へ連れて行った。Tは道具じゃなくて、この世に生を受けた生き物なんだから、と言いながら。それでいて、壊れ物のようにTを扱う。ビーチで出会う犬連れの人に、Tはペットではなくて連邦政府の所有物だと説明してケンカをさせないように、夫はことさら慎重になる。空港をTとパトロール中、観光客が寄ってきて「きゃー、かわいい犬。なでていい?」と聞くと、夫は必ず「だめ」と断る。「この犬噛む?」と聞かれると「どんな犬も噛むのが当然」とすげなく言い放つらしい。訴訟の国アメリカとはいえ、Tのためとなると神経質になる夫を私はずっと見てきた。 Tが年を重ね、現役を引退して晴れて我々のペットとなってから、夫は新しい犬Qをパートナーに迎えた。「T以外の犬なんて考えられない」と悩みに悩んだ末、チェコからやって来たQを受け入れた。Tと同じ犬種で姿形はそっくりとはいえ、二匹は全く性格が違う。二歳になったばかりのまだまだ子どものQを、忍耐強く訓練しながら、他人と接触する際にはまたまた必要以上に神経を尖らせる夫を私は今、毎日見つめている。 爆弾探知犬は火薬好きで、麻薬探知犬は麻薬中毒だと思う人がいるが、捜索犬は爆弾や麻薬に即飛びつくのではなくて、パートナーに「ここに麻薬があるよ」と伝えることでご褒美をもらう。ご褒美とはテニスボールやゴムボールなど、噛んで楽しむおもちゃだ。犬はおもちゃで遊びたい時は仕事をするけど、気分が乗らない時でもなだめすかせて仕事をさせるのが夫の役目。この辛抱強さを持った夫のおかげで、我々夫婦は今のところ国際離婚の危機を避けることができているのかもしれない。 シャイで臆病な性格のQは、徐々に我が家になじんできた。その証拠に、食べ物をおねだりするとき、いつの間にかあのすがるようなまなざしで私を見るようになったもの。やれやれ、あのまなざしのおかげで、私は一人の男と二匹の犬のどんなわがままも聞き入れる女になってしまった。
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