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第14話:レースその後


A paddler going through a victory tunnel after finishing a race

 昨年のカヌーシーズンは、この上ない充足感に満たされて、終わった。新しいコーチ、新しいストローク法、新しいパドルを手に入れて、体力も技術も向上した。タイムもレースの成績も上がった。65キロを漕ぎ切ったモロカイレースの後、何度パーティーを開いたことか。モロカイレースの直後、クラブハウスでのパーティー。数えきれないほどの抱擁とキス、レイの花々に続いて、シュワーっと泡の立ったビールとテキーラ・ショット。仲のいいクルーだけで集まってのパーティー。コーチを交えてお疲れさまパーティー。地元ケーブル局でレースの模様が放送されたのを皆で見ながらまたパーティー。グラスを片手に、あの時はああだった、こうだったとレースを振り返るひとときは格別だ。

 しかしそんな至福の時は永遠には続かない。パーティーの酔いが冷めないうちに、コーチからメールが届いた。2月いっぱいまでのシーズンオフの4ヶ月間、体力と体型を維持するようにというメッセージだった。期間中、毎月1回集まって、トレーニングの進捗状況を審査すると彼女は言う。自分自身がスーパーアスリートなコーチだから、なんとなくそういう事を言われるのではないかなあと、うすうすは感じてはいたけれど、実際に彼女からのメールを見て私は恐れおののいた。

 第1回目の召集に現れたコーチは、体重計を持っていた。「これからの時期、ごちそうをたらふく食べて、浴びるようにお酒を飲んだりするつもりでしょ。ちゃーんとわかっているのよ」といたずらっぽく笑って、それでもひとりずつの体重を量っては、用意した表に書きこんでいる。その後彼女自身がデザインしたトレーニング・プログラムをひととおり皆にやってみせて、「じゃ、また1ヶ月後にね」と言い残してさわやかに立ち去っていった。

 コーチの作ったトレーニング・プログラムというのが、なかなか骨の折れるプログラムである。全部こなすと2時間はかかり、翌日は筋肉痛もついてくる。自主的にこれを週に3回以上やるように、とコーチは言ったけど、私たちは適当に差し引いて、週に2回くらい仲間とトレーニングをし、たまに飲み会も催した。私たちの自主性なんて、こんなもんだと、月に1回会うコーチはわかっていた様子。2回目以降、体重計を持ってもこなかったし。そうこうしながら、早いもので、とうとうオフシーズンは終わろうとしている。

 かくして、今シーズンの練習開始を知らせるメールがコーチから届いた。初日の練習予定にかなりきついメニューが書いてあったので、また顔面が蒼白になるところだったが、レース後の4ヶ月間を多少なりとも彼女の指導のもと、大幅に体力と体型を変えることなく過ごせたため救われた。今までなら、シーズン中とオフシーズンの服として2種類そろえる必要があったけど、おかげでワンサイズのまま一年を通すことができた。悪いなあと思うのは、「カヌーシーズンが終わったら、あれもする、これもする」と夫に宣言していた家でのDIYプロジェクトがまったく進まなかったこと。もうペンキ塗りする時間なんてなさそうだ。それでもまた、素晴らしいシーズンが始まる予感がする。

文と写真:澄水ゆかし
【プロフィール】
短距離から、長距離はモロカイレース「ナ・ワヒネ・オケカイ」を完漕する、ワイキキヨットクラブ所属の自称“カヌーガール”。共著に双葉社発行『ハッピーグルメハワイ』『ハッピーハッピーハワイ』他。sponavihawaii.comにてブログ『カヌーガールのハワイ徒然記』を更新中。

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