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第9話:アメリカ式ほめる教育


Hawaii Hall at University of Hawaii at Manoa

日本で音楽の先生になろうと思っていたころ、ピアノ教師のアルバイトで音をあげた。生徒は練習はしない、手取り足取り譜読みからつきあって、一曲終わればまた次の曲で同じことの繰り返し。なんと忍耐のいる仕事だろうと心底思い知って教師になることをやめた。なのに、ここハワイに来てから、いろんな場所でいい先生に出会うと、今更ながら教師っていい仕事だなあと思う。

 州立ハワイ大学に留学した時、教室の雰囲気があまりに明るくて活発で、ずっと学生でいたいと思ったものだ。授業中、生徒はどんどん質問する。先生は「なんて良い質問だ」とほめてから、質問に答える。他の生徒が「それはこうじゃないか」と意見する。先生は「なんて良いことを言う」とほめてから、補足する。中にはそんなに質問ばっかりしてたら試験の範囲まで終わらないじゃない、とイライラしている生徒もいたけれど、概してどのクラスもこんな感じで進み、私はポジティブなクラス環境に心から感動した。

 今のカヌーコーチもこの手の人だ。彼女は素晴らしい経歴の持ち主で、ハワイ中から尊敬されているカヌーパドラーである。陸トレを週三回しなさいとか食べる物についてもとやかく言う、とても厳しい人。だけど、練習中に大声で怒鳴られるとかパドルでひっぱたかれるようなことは決してない。逆に、ほめてほめてほめちぎり、どこまでも高いところへ引っ張って行ってくれる、まるで神様のような人だ。あまりに持ち上げられるとつい居心地が悪くなって、自分で落とさねば、とオチを探してしまう関西人のサガはこの際放っておいて、思い切って持ち上げられたままカヌーを漕いでいると、不思議なことに200%くらいのパワーが出てくる。少なくとも、出ている気がする。そう、このテクニック。留学の経験から私はこれを“アメリカ式ほめる教育法”と呼んでいる。本物の教育者の方にすればこの方法も良し悪しだろうけど、所属するカヌークラブに限ってはかなり有効だ。なぜならメンバーの練習出席率が非常に高く、練習中コーチが「気分はどう?」と声をかければ、誰もが声を張り上げ「もう、最高!」と答えるのだもの。我々は一人残らずコーチに乗せられまくっている。

 音楽教師の夢をずいぶん昔に断ち切ったはずが、実は今も小学生にピアノを教えている。忍の一字でレッスンを終えたある時、隣の部屋で聞いていた夫が出てきて、「すっごくうまくなったねえ」とキャンディーを渡していた。生徒はいつになくうれしそう。それ以来、レッスン中は意識してほめるようにし、よくできた時にはキャンディーをあげるようにして、アメリカ式教育効果が上がる日を待っていた。先日生徒に将来の夢を聞いたら、「お菓子屋さんになりたい」って。まあ、いっか。

文と写真:澄水ゆかし
【プロフィール】
短距離から、長距離はモロカイレース「ナ・ワヒネ・オケカイ」を完漕する、ワイキキヨットクラブ所属の自称“カヌーガール”。共著に双葉社発行『ハッピーグルメハワイ』『ハッピーハッピーハワイ』他。

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