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第6話:女同士


Long Distance Crew Heading for Makapuu Point

  気候の温暖なハワイでは年間を通じてアウトリガーカヌーを楽しむことができるが、レース時期はきちんと区切られている。短距離から長距離レースシーズンに移行するとき招集されたミーティングで、コーチは女子の長距離クルーに一枚のメモを手渡した。練習時間が長くなるから絶対に水を忘れないようにとか、週に三回以上はスイミングやランニングなどのクロストレーニングをするようにとか、一般的な注意事項の最後に、こんな言葉を見つけた。
  「文句言うな、悪口言うな、批判するな・・・・・・黙って漕げ!」

 想像してみてほしい。赤の他人六名が何時間も小さなカヌー上で息を合わせて漕ぐ事の難しさを。こういう言い方は語弊があるかもしれないと一応断った上で言わせてもらうなら、とりわけ複数以上の女性が集まるところには揉め事が起こりがちである。健全なるスポーツマン精神にあふれているカヌーのクルーだって例外ではない。
  「もっと早く漕げないの?」「もっとゆっくり!」「短すぎる!」「長すぎる!」
  六人乗りカヌーの1番に座る人が作るペースについて、後ろの五人はああ漕げこう漕げとかまびすしい。1番だって負けずに叫び返す。
  「あんた達がタイミング合わせてよ!」「もうやめ。誰か1番交代して!」
  かくしてシートを替えることもしばしばだ。

 カヌー上で火花をバチバチ散らした後、陸に上がっても尚イライラや不満がおさまらない場合はコーチに訴えるのだが、ドライな男性コーチはたいてい取り合ってくれない。またか、という顔で聞き流すだけである。こんなことが起こるから“女子の”長距離コーチはやりたくないんだ、という人さえいる。しかし、女性のコーチは違うのだ。二人きりになった瞬間に、彼女はちゃんと心の声に耳を傾けてきてくれる。「ね、漕いでて嫌な子、いるでしょ。誰?誰?だあれ?」嫌な人なんていませんとしおらしく答えても、「いいのよ、いいのよ。クルーの中に一人、いや二人はいるはず。正直に言っていいから」こういう女同士だから、というアプローチ、私は好き。女だから揉めるのだけど、その揉めごとについておしゃべりする時間を楽しむのも、女同士だからできることだと思う。

 長距離のシーズン中、オアフ島内だけでなく、他島のレースにも参加する。ハワイ島コナではリリウオカラニ女王の誕生日に行われるレースが有名で、連休と重なることもあって今年もコナではゆったりとした時間を過ごすことができた。ホテルに着くなり、誰がどこに寝るとかいつ買い物にでかけるとか些細なことでの行き違いはあったにせよ、群青色のコナの海を見渡すホテルのジャクジーで、女同士が集まって他愛のないおしゃべりに花を咲かせたひとときは楽しかった。カヌーの漕ぎ方から始まって、仕事や恋愛などパーソナルな話題に発展しても、またやはりカヌーの話に戻ってしまう。誰が何番に座ると良いとか悪いとか、誰の肘が曲がっているとか伸びているとか、話は部屋に帰ってもつきなかった。

 長時間六人で漕ぐ難しさやわずらわしさをストレスに感じるから、短距離を専門にしたり一人乗りカヌーだけを漕ぐ人もいるが、私はなんだかんだ言いながらカヌーの六席をめぐる女同士のやりとりが無性に楽しい。特に他島のレースで合宿のように寝食を共にすることで生まれる連帯感は、個人スポーツでは味わえない。シーズン最後のモロカイ島からオアフ島への海峡越えレースの頃までには、なんとなしにクルーの気心が知れて仲良くなっているから不思議だ。これは海峡を相手にするから全員一丸となって漕がないとどうしようもないってことに気づかされるからでもあるが。しかしなぜシーズン最後まで待たなくてはいけないのだろう、とふと思った。そうだ、来年の長距離練習を始める前に、ミーティングなどと言わず一泊で合宿に行くのはどうか。女同士夜を徹してなんやかやとおしゃべりしたら打ち解けて、シーズンの早いうちからカヌー上では口をつぐんでいられるのでは。男性コーチはきっとついてきてくれないだろうけど。

文と写真:澄水ゆかし
【プロフィール】
短距離から長距離はモロカイレース「ナ・ワヒネ・オケカイ」を完漕する、カママラホエ・カヌークラブ所属の自称“カヌーガール”。共著に双葉社発行『ハッピーグルメハワイ』『ハッピーハッピーハワイ』他。

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