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ハワイの海洋文化

遠い昔、海を渡ったひとびとがハワイ人の祖先となった。荒波と強風に生身をさらし、生命の危険を冒してもなお、ひとびとが海を渡らずにはいられなかった理由は、やはり太古の時代から、ハワイは人類にとっての楽園であったからなのだろうか。
楽園にたどり着いたひとびとは、母なる海に尊敬と感謝の念をささげながら、丸木船を作って魚を獲り、年月をかけて独自の海洋文化を育てた。日本人であるわれわれがこういったハワイの文化に心ひかれるのは、同じく古代から海と共生してきた環境に育まれた感性のためかもしれない。
ハワイ諸島とそれらを囲む大きな海を頭に描きながら、「島国」ハワイの海洋文化について、探索してみたい。

ポリネシアからハワイへの移住 ハワイ人はどこからきたか
ハワイに人類が住みだしたのは紀元400年頃というのが有力な説だ。彼らはハワイよりずっと南に位置するマルケサス諸島、クック諸島、タヒチから航海してきたポリネシア人だ。ポリネシア人のルーツを探ると、もともとは東南アジアの人類を祖先とし、インドネシア、ミクロネシア、メラネシアと東へ移動、紀元前1600年頃にはニューギニアからさらに東のフィジー、トンガ、サモアに移り、文明を築いたラピタ人にさかのぼる。これらの島に落ち着いて独自の文化を育てたあとで、さらに東のタヒチ、マルケサス諸島に向かい、ポリネシア文化圏を確立する。やがてさらなる東はイースター島、西はニュージーランド、北はハワイへと、ポリネシア人は拡散した。(右図参照)
5世紀以降、ハワイへのまとまった移住が起こったのは12世紀ごろ。タヒチから集団での移住、定植により、人口は増加、繰り返し行われていたタヒチーハワイ間4000キロの航海も、14世紀を最後に途絶えたといわれている。

ナビゲーションとウェイファインディング ハワイの伝統航海術
ヨーロッパ人が未知の大陸を目指して航海した時は、常に陸に沿ったルートを取るか、羅針盤などのツールを必須としてきたのに比べ、ポリネシア人は計測器も持たず、太平洋の大海原を縦横無尽に航海した。たまたま島にたどり着いては「発見」を繰り返した西洋人に比べ、ポリネシア人は定住という目的と共に家畜と植物をカヌーにのせ、島と島の間何千キロを往復した。ポリネシア人の高度な航海術は、西洋式の海図をたよりにしたナビゲーションではなく、「ウェイファインディング」と呼ばれる。太陽、雲、星、風、波、鳥など、ありとあらゆる自然現象を観察しながら、常に自分が太平洋のどこに位置するかを体で覚え、コースを決めるという方法だ。   ▲古代のアウトリガーカヌーを再現した模型(ビショップミュージアム)


希望の星ホクレア号 海洋文化の復興−未来への航海
 
▲1976年当時のホクレア号と、ナイノア・トンプソン氏とクルー達を紹介した展示(マリタイムセンター)

14世紀を境に、ハワイを安住の地としたひとびとは、高度なウェイファインディングの航海術を使うことなく時が過ぎていった。18世紀、イギリス人キャプテン・クックの到来を機に一気に西洋化が進んだことも、伝統航海術の消滅に拍車をかけた。
それから200年後の1975年、「希望の星」という名の航海カヌー、ホクレア号が誕生する。ハワイに芽生え始めた先住民族の意識が、失われた航海術の復活とポリネシアにさかのぼる民族のルーツを科学的に実証しようとするものだった。ホクレアは完成したが、航海術の教科書が存在するわけではない。航海術はミクロネシアに住む航海士マウ・ピアイルグがハワイに招聘され、ハワイのクルーに伝授した。その中には当時24歳だったハワイアンの血をひく青年、ナイノア・トンプソンがいた。1976年、ホクレア号はハワイからタヒチへの航海を達成する。一度は消滅した航海文化を、ハワイは復興させたのだ。
以来30年にわたり、ハワイ一のウェイファインダーとなったナイノア・トンプソン率いるホクレア号は、ニュージーランド、イースター島を結ぶポリネシアントライアングルの海域だけでなく、北東にのびるハワイ諸島など計11万マイル、世界を4周する距離を航海してきた。来年2007年にはミクロネシアから沖縄、本州を経て北海道まで航海する予定さえある。
ナイノア・トンプソンが見つめている方向は、目的地の島であり、同時に未来である。ハワイの海洋文化を明日に伝えるため、ハワイの子ども達への教育と、彼に続く伝統航海士の育成に全力を注いでいる。過去と未来、地球をひとつにつなげること、それが、ホクレア号に海を渡らせる理由かもしれない。

博物館で、ハワイの海洋文化に触れる
★マリタイムセンター
海洋史に触れる
アロハタワー横のハワイ・マリタイムセンターは、ハワイの海洋文化のすべてを網羅した展示品であふれている。ポリネシア人が航海した時代にさかのぼり、キャプテン・クック、捕鯨、漁業、セイリング、海運業で栄えた現代にいたるまで、歴史を追って豊かなマリタイム文化を見ることができる。巨大なザトウクジラの骨や、異なるスタイルのポリネシアン・カヌーのディスプレイが目をひくが、ホクレア号やのちに作られた航海カヌー、ハワイロア号についてのコーナーもじっくりと見たい。センターの横には、世界最後の4本マストの帆船、「フォールズ・オブ・クライド」が繋留されているので、実際に中に入って見学するといい。
場所:アロハタワー横ピア7
電話:536-6373
開館:毎日8:30-17:00
入場料:大人$7.50 4〜17才$4.50(音声ガイド込み)
 
▲マリタイムセンター横に繋留されている「フォールズ・オブ・クライド号」。1973年に米国歴史的重要文化財に指定された。

▲ホクレア号の復元にちなんだ展示コーナー
 
▲復元されたアウトリガーカヌーやキャプテン・クック来訪以降の展示品が並ぶ1階展示室

▲単独航海のコーナーでは、1962年に「マーメイド号」で単独太平洋横断に成功した日本人、堀江謙一氏も紹介されている。
 
▲大型の貨物船や客船が登場した1900年代の展示、マウイ島ラハイナが捕鯨基地だった時代を再現した展示など、近代・現代までの海の歴史を体感できる。
 
▲本物のザトウクジラの骨格標本もある。

★ビショップミュージアム
 
▲メインの展示ホール「ハワイアンルーム」。ハワイ王朝時代の貴重な展示品は必見。
プラネタリウム“星の羅針盤”
星の動きを頭にたたきこむために、ナイノア・トンプソンが足しげく通った場所がビショップミュージアム内のプラネタリウム。真っ暗な洋上で過ごす夜間、目印となるものは空に瞬く星たちだ。船がハワイを出発する時、タヒチに近づく時の北極星や南十字星、その他多くの星座の見え方をプラネタリウムに映しだし、星の羅針盤として覚え込んだという。
ビショップミュージアムのプラネタリウムでは、日本語でポリネシアの航海術を解説してくれる「探検者たち」というショーを毎日開催している。また、館内のホールにはプリンスクヒオが所有した6人乗りレーシングカヌーや、ポリネシアの島々のパドルなど、海洋の歴史に関する展示品もある。海洋以外でも、サイエンスアドベンチャーセンターや、ハワイ王朝時代の大規模なコレクションなどみどころはいっぱいなので、じっくりと見学する価値のあるミュージアムだ。
場所:1525 Bernice St. Honolulu
電話:847-8291 開館:毎日9:00-17:00
入場料:大人$14.95 4〜12才$11.95
(プラネタリウム入場料込み)

プラネタリウムの入口にはスターナビゲーションなど、伝統航海に関する展示コーナーがある。現在上映中のプログラム「探検者たちExplorers of Polynesia」は、1日1回12:45から日本語で解説をしてくれる。

★ホノルル・アカデミーオブアーツ
クック/フォスター・コレクション
[1700年代の太平洋地域の生活]展

ハワイ人がどこからきたか、という謎を解いたのは、奇しくも西洋人の航海者によってであった。ポリネシアの島々をめぐるうち、言葉や外見、食生活など様々な点で類似点を発見したことから、ポリネシア圏の移住説がおぼろげにできあがり、その後考古学者たちに研究が進められたという。
ホノルル最大の美術館、アカデミーオブアーツでは、5月14日まで、キャプテン・クックが1768〜1779年の間に太平洋の島々で集めた500点にのぼる品々を特別展示中。これらが公に出るのは初めての貴重なコレクションなので、14日までにハワイに来る人は必見。
場所:900 Beretania St. Honolulu
電話:532-8700
入場料:5月14日までは無料(通常大人$7)



来年日本に来る予定だというホクレア号について、もっと知りたい、という人に今回の特集でも参考にした文献を紹介します。
◆www.pvs-hawaii.com:ホクレア号を建造したポリネシア航海協会のホームページ。歴史からホクレア号の航跡まで、本家本元の情報が盛りだくさん。(英語)
◆『Hana Hou!』2000年2月号:ハワイアン・エアラインの機内誌。クルーの移送など、常にサポートしているホクレア号の特集が組まれている。ハワイの本屋で購入可能。(英語)
◆『Eddie Would Go』:ホクレア号2度目のタヒチ航海で尊い命を落としたハワイのサーファー、ライフガード、真の英雄、エディ・アイカウの感動の伝記。(英語、2002年10月発行)
◆『ホクレア号が行く』:ナイノア・トンプソンが自分の言葉で語る形でつづられた、ホクレアにまつわる話。(ブロンズ新社:2004年5月発行)
◆『Tarzan』2004年5月特別編集号:内田正洋さんの熱のこもった文章が読める。写真や図も美しく、ホクレアに興味のある人は必読。(マガジンハウス)

※資料は2006年4月現在、入場料・スケジュール等は変更される場合があります。なお写真や図の無断使用はお断りします。



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